小さな封筒のお話。(愚痴)
次の日、やはりその女の子はいた。
俺を見つけると、大きな目を細くして、微笑みながら手を小さく振ってくれた。
周りの友達はザワザワとなっていたので、とても恥ずかしかった。
傘を受け取り、アイスを食べながら、友達からすごい質問攻めにあったが無視をした。
チラッとその女の子を見ると、やはり時計台とバス停の時刻表をせわしく見ていた。
そしていつも通りの日がまた何日か経った。
女の子は俺ら小学生に混じって、じゃんけん遊びやしりとりとか、いろんな遊びを一緒にした。
女の子の名前は千穂。
見たことも聞いたこともなかったから、最近よくある「カタカナ名前」か何かだろう、と思っていた。
ある日、家に帰って夕食を食べていると、
母さんがこんな愚痴をこぼした。
「うちの病院に困った人がいるのよー。病室を抜け出しては遅くに帰ってきてなぁ。
どこで何しちょる(している)か知らんばってんが(けど)、
こげん暑い中、外に出ちょったら、責任とれんわぁ」
父さんは、
「ボケてるのか?大変だな」
「違うわよ、中学生の女の子でねぇ…。ガン(小児がんらしい)なんよ」
「へぇ。そりゃ困るなぁ」
「まぁ、先生(医者)もこりゃ治らんっち言いよるけん、
御両親も先生も、好きにさせりゃいい、とか言っちょるんよ」
母さんは病院の看護婦だった。
すぐ近くにある大きな病院だ。
千穂のことかな、と胸にグサッときた。
次の日。
いつも通り、チホ姉ちゃんはいた。
病院から抜け出す・・・
母の愚痴が思い浮かんだ。
チホ姉ちゃんに、間違いない。
細い腕、細い脚、弱そうな感じは、いかにも病人らしかった。
その日、母さんにチホ姉ちゃんのことを言ってみた。
チホ姉ちゃんに間違いなかった。
俺は、チホ姉ちゃんが治らない病気になってることがショックだった。
その日はずいぶん泣いたと思う。
「死ぬ」っていうのはガキながらよく分かっていた。
じいちゃんが交通事故で即死したからだ。
あの悲しみが、じわじわと、胸に湧いていた。
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