小さな封筒のお話。(現実)
次の日、チホ姉ちゃんの通夜があった。
俺は親戚でもなんでもないので、行くことはできなかった。
葬式は、母が俺が風邪をひいた、と嘘をついて、葬式に行かせてくれた。
棺桶からチホ姉ちゃんの顔を見た。
ホント、今にも起きそうな顔だった。
体を触ると、現実を思い知らされることを知っていたので、触ることはできなかった。
チホ姉ちゃんの前では泣かない。
決めていた。
チホ姉ちゃんを焼き、骨壷にいれる時が来た。
お腹の部分の骨は全くなかった。
俺は震える手でチホ姉ちゃんをいれた。
変わり果てたチホ姉ちゃんを正視することすらできなかった。
葬式が終わって数日後、
チホ姉ちゃんの母親から封筒がきた。
なんでも、チホ姉ちゃんが俺に手紙を封筒の中に残してくれていたという。
ユウトくんへ。
これをよんでいるということは、私はついに死んじゃったのね。
私が死んでどれくらいたったかな?
“死ぬ”って言っても、消えるわけじゃないんだよ。
ユウトくんから見えないだけで、
お姉ちゃんはずっと、ユウトくんを見てるよ。
ほら、今、となりにいるでしょう。
いつもびょうしつに入ってくるときに言うように「千穂姉ちゃん」ってよんでください。
私はあれを聞くのを、毎日楽しみにしていたよ。
今だって聞きたい。ユウトくん。
泣いてないよね?
元気あふれるユウトくんを見ていたいから。
おせわになりました。
楽しかった。
ありがとう。
10月12日
千穂姉ちゃんより。
それと、
封筒の中に小さい封筒が一つあった。
手触りだがその封筒の仲には手紙が何枚かあった。
封筒には「私のたいせつなひとに書いたお手紙です。見つけたらわたしてください」と裏にあった。
チホ姉ちゃんからは、その「たいせつなひと」の話を全く聞いていなかった。
当然、俺に預けたって無駄って分かっていただろう。
じゃぁ何で俺に頼んだんだろ、と思った。
いつかは、「たいせつなひと」について話すつもりだったのだろう。
それを話す前に、あっけなくチホ姉ちゃんは死んでしまったが。
チホ姉ちゃんがあのバス停でずっと待っていたことを思い出した。
学校の帰りに、バス停に止まってバスから降りてくる人の中で
チホ姉ちゃんと同じ中学生くらいの男子を探した。
いつでも会えていいように、
ランドセルにはいつも封筒をいれていた。
あれから十数年。
結局、「たいせつなひと」に会えることはなかった。
家の大掃除をしていたら
タンスの中からあの封筒が出てきて思い出した、
チホ姉ちゃんとの不思議な夏の話でした。
その封筒は、まだ開けていない。
・・・END・・・