父の言葉のお話。
昔、おばあちゃんと保育園の帰り、
私はおばあちゃんのつないでた手をふりほどいて走った。
おばあちゃんは私をおいかけて、転んで砂利で手を切った。
けっこう酷い怪我で、入院した。
そしたら、その入院がもとで、足も傷めて、腰も傷めて、
つぎつぎ傷めて、とうとう寝たきりになった。
そして退院できないままに死んでしまった。
私が手をふりほどいたから、おばあちゃんが死んでしまった
私はそんな風に思えてしまい、
ずっとずっと苦しかった。
それでおばあちゃんのこと思い出さないようにしてた。
妹が結婚したとき、田舎から両親が私の家に来て、いろいろ話をした。
おばあちゃんのことも話した。
ずっとそのこと誰にも話したことなかった。
父は、
「年寄りっていうのはちょっとしたことで骨が折れるし、
一度寝込むとそれきり死んじゃったり、そういうこと多いんだよ。
そういうもんなんだよ。おまえのせいじゃなかったよ。」
と言った。たくさんの友達や兄弟や知り合いの老人の死を
経験して来た父の言葉はなんかさらっとしてたけど真実味があった。
その父ももうすっかり老人になってた。